天皇家ゆかりの門跡寺院で、
煌びやかな障壁画を。
毎年春と秋に行われる「京都非公開文化財特別公開」、
今春は「天皇陛下御即位」にちなみ、「奉祝 天皇陛下御即位 春期京都非公開文化財特別公開」として開催され、皇室ゆかりの門跡寺院を中心に20か所が公開されています。
こちらは聖護院門跡。
役行者を宗祖とする本山修験宗総本山で、
寛治4年(1090年)、白河上皇の熊野御幸で護持僧を務めた増誉大僧正に、「聖体護持」から2字をとった聖護院を与えられたことに始まります。
代々、皇族か摂関家が門主(住職)を務め、天明の大火により御所が火災に遭った際は、光格天皇の仮皇居ともなりました。
総本山として、法要の際は全国から多くの山伏が集まり、大規模な護摩修業が勤行されます。
宸殿には、
狩野山雪の子、狩野永納と、狩野探幽の養子、狩野益信による金碧障壁画100余面が納められており、
緑青や朱を使った迫力溢れるものから、墨を主として描いた落ち着きのあるものまで、幅広く描かれています。
この上段の間のみ、
写真撮影が可能になっています。
上段の間は、天明8年(1788年)の内裏炎上後に光格天皇が公務を執行した場所で、
狩野益信によって四季・花鳥風月が見事に描かれています。
上段の間の正面に掲げられているのは、
後水尾天皇(1596-1680)の筆による「研覃(けんたん)」の額。
「自分自身を磨いて、自分の心の畑を耕しなさい」という意味で、額の四方が丸くなっているのは「他者を傷つける“角”を持たない」ことを表しているそうです。
欄間にはネズミが通るための穴が設けてあり、
かじられることを防ぐために、あえて通りやすくするという工夫だそうで、
他者との共存という思想が込められています。
続いて本堂でご本尊の不動明王像にお参りします。
聖護院には、明治の廃仏毀釈の際に廃寺となった末寺から預かった不動明王像が多く安置され、本堂に安置されている不動明王像は平安後期の作と伝わります。
本堂から宸殿、奥の書院の間には庭園が広がり、
緑の中に真っ赤なキリシマツツジが色を添えていました。
書院は、後水尾天皇が女院のために建てたもので、
延宝4年(1676年)に聖護院が現在地へ移転したときに、
御所から移築されたと伝わります。
恋文を表す折文の形を使った釘隠しなど、
随所に女性を意識した意匠を見ることができます。
後水尾天皇が女院のために建てた、
優美で繊細な書院と、
庭園に咲く真っ赤なキリシマツツジが、
門跡寺院ならではの格式の高さを、
随所に感じさせてくれました。
聖護院門跡の拝観を終え、
塔頭・積善院へ。
今回が初の公開となる積善院は、
鎌倉時代1200年頃の創建とされ、江戸時代建立の凖提堂と明治の初め合併され、積善院凖提堂とも呼ばれます。
本堂には2体の本尊が祀られています。
平安後期の秀作とされる不動明王立像(国重要文化財)は積善院の本尊で、その背後に立つ高さ約4mの準提観世音菩薩像は、もとは約200年前の江戸時代に、存命中に退位した最後の天皇として注目される光格天皇の勅願で創建された準提堂に安置されていたものです。
また弁財天女尊立像と役行者像も近くの寺に祀られていたもので、明治初めの神仏分離令と修験道廃止令を経て、四つの寺が合併され、積善院に集めて祀られるようになりました。積善院に祀られる4体の本尊は法難の歴史と篤い信仰を今に伝えます。
境内には保元の乱で讃岐に流され、配流地で墳死された崇徳天皇の霊をなぐさめ祭ったという「崇徳院地蔵」(別名・人喰い地蔵)や、
聖護院の森で心中した、お俊・伝兵衛の供養塔などがあります。
聖護院門跡と初公開となる積善院の両方を拝観でき、充実した特別公開でした。
続いて、勧修寺へ。
900年、醍醐天皇が生母である藤原胤子の追善のために創建したと伝えられる門跡寺院です。
昨年春の「そうだ 京都、行こう。」のキャンペーン寺院となった勧修寺。その時に初公開された書院が今回の春期京都非公開文化財特別公開でも公開されました。
宸殿から上がり、
書院へ入ります。
江戸時代の女性天皇だった明正天皇の御殿を移築したと伝わり、
煌びやかな障壁画が残されています。
最初の15畳の次の間には、
宮廷絵師として名高い江戸時代の絵師、土佐光起が描いた「近江八景図」が襖や床の間いっぱいに描かれています。
床の間の左下には瀬田の唐橋が、右上には石山寺が描かれています。
障子の下には、浮見堂が描かれていました。
上段の間は8畳で、
光起の息子の土佐光成の竜田川紅葉図が描かれています。
さらに奥には、
4畳の柳の間があります。
お寺によく飾られる中国の故事や風景を描いた絵画とは異なり、
日本の名所を描いた「大和絵」として大変珍しい作品を鑑賞させていただきました。
廊下に出ると、
庭園越しに、
観音堂を見渡しました。
宸殿に戻り、
外に出て庭園を歩きます。
書院の前には、
水戸光圀公寄進の勧修寺型灯籠と、
ハイビャクシンと臥龍の老梅を見ながら、
観音堂へ進みます。
氷室池を中心とした庭園に立つ楼閣風の観音堂には、
観音菩薩さまがいらっしゃり、
春は桜に包まれます。
そばに広がる氷室池は、
カキツバタ、スイレン、蓮と季節の花が咲き誇ります。
4月末のこの時期、
池の畔に白藤と藤が咲き乱れていました。
自然豊かな庭園が広がる門跡寺院、勧修寺で煌びやかな障壁画を見ることができました。